「動物園の思い出」
35年程前、バイトから帰ると我が家に「そり込み」を入れた怖い風貌のお兄さんがいた。
「?」
「四国の良ちゃん。」と言われて謎が解けた。
小学1年の時に我が家でたった1回だけ経験した家族旅行で知り合った親戚の息子さんである。
一緒に遊んだけど下らないことで取っ組み合いの喧嘩となった。
帰りの駅のホームでお互いに「ごめんね。」が言えなくて
走り出した電車の窓から手を振ると、良ちゃんも作り笑顔で手を振り返してくれた。
それから約15年後。
四国で「ボーソーゾク」になり、彼女と家出。
警察から我が家へ連絡。そして再会なわけである。
「バイト代も入ったし呑みに行こうか?」
ビールを飲みながら
良ちゃんの家のトイレが家から離れていて怖かった事。
喧嘩別れした事。
そんな話をすると笑っていた。
「2ヵ月近くも北海道をほっつき歩いてたんだって?親戚の問題児は俺だけじゃなかったんたんだぁ・・・
今度瀬戸内海の無人島でキャンプしない?面白いよ。あと何日かしたら愛媛に帰るよ」
「東京で行きたい所ある?」と聞くと、妙に真顔で「絶対に笑うなよ!」と良ちゃん。
「俺、上野でパンダが見たい」
言っている事と頭のソリコミの入った強面の差に笑いが止まらなかった。
翌日上野動物園へパンダを男二人で見に行った。
眠っていて動かないパンダに「これホントにパンダ?生きてんの?本物?」
子供のように良ちゃんはパンダを眺めていた。
四国へ帰る電車のホームで「バイト代で色々おごってもらってありがとう。
無人島のキャンプに絶対に行こうな。」と良ちゃんは四国へ帰っていった。
それから二年して癌で亡くなった知らせが届いた。